全国的にきわめて希少な『ハガマルヒメドロムシ』
63年ぶりに山田緑地にて再発見されました!
「ハガマルヒメドロムシ」は1955年の「小倉」産の個体をもとに新種記載された水生昆虫の仲間であるヒメドロムシの一種。その後は1959年に同じ小倉で、1970年に若杉山で記録されたのみで記録が途絶えていたが、2000年代に夜須町(現筑前町)で再発見された。現在の福岡県内で安定して生息が確認されているのは1か所のみという。福岡県RDBでは絶滅危惧ⅠB類とされている。また、全国でもきわめて希少な種で、鳥取県、島根県、広島県、山口県で記録があるのみ。環境省RDB2020でも絶滅危惧ⅠB類とされている。(以上、福岡県RDB2014記述を参考)
今回、NPO法人北九州・魚部と北九州市立山田緑地では、以前より取り組んでいる緑地内の水生昆虫調査を10月8日(土)に行った際に、ハガマルヒメドロムシ1個体を採集確認した。北九州市(小倉)に深く縁のある水生生物が、長い時を経ても生き残っていたということで、SDGs未来都市でもある本市や山田緑地に自然の豊かさが残ることを示している事例であると思われる。
・ヒメドロムシは水生昆虫だがタガメやミズカマキリとは異なり、陸生のカブトムシ・クワガタ同様の「甲虫」で、ゲンゴロウなどと同じ「水生甲虫」の仲間である。
・ドロムシと付くものの泥にいるのではなく、清澄な流水の河川に生息する。
・さらに、水中の溶存酸素を取り込んで呼吸するため、ゲンゴロウのように呼吸のために水面に上がる必要がない。
・ホタルも清流にいるが、一生を水中で暮らすという点で清らかな水を重要な生息条件にする水生昆虫がヒメドロムシである。そのため「清流の妖精」と呼ぶ研究者もいる。
・1.2㎜~5.5㎜ほどの微小なサイズ。全国に60種ほど生息する多様さがあり、地域や流程、河川規模、底質などさまざまな要素によって棲み分けていると考えられる。
・似ている種もあるものの、体型や斑紋もそれぞれ異なる多様さが面白い。
2.ハガマルヒメドロムシ Heterlimnius hagai (Nomura, 1958)とは?
・全長2.3㎜ほどで、ヒメドロムシの中では中型サイズ。
・丸い体型、黒い体色に上翅付け根の黄色い斑紋が特徴的。
・既知産地から推測すると、低山地や丘陵地の清澄な細流を好むか。
3.従来の状況(タイプ産地の北九州市・福岡県・全国)
・1枚目囲み内に書いたように、1955・1959年の「小倉」産をもとに新種記載された種で、北九州市、特に小倉地区(紫川水系)にとても縁のある生き物。タイプ標本にある「小倉」がどこを指すかも不明だったが、その後の小倉地区や紫川中下流域の発展に伴う環境悪化の状況を考えると、探していたものの見つけることはできないだろうと考えられていた。
・福岡県内でも現存生息地は2か所のみという希少さ(福岡県・絶滅危惧ⅠB類)。
・さらに全国的にも同様に、福岡県以外ではわずかに鳥取県、島根県、広島県、山口県の4県のみで生息確認されているだけ(環境省・絶滅危惧ⅠB類)。
4.今回の再発見について
NPO法人北九州・魚部は北九州市立山田緑地と協働し、2015年度より緑地内で水生昆虫調査を続けており、その成果をイベント等で展示や観察会に活かしてきた。今回、2022年度調査を10月8日(土)に実施する中で、通称ガマの池でハガマルヒメドロムシを1個体採集した。ヒメドロムシは本来、河川や沢など流水にする。今回の発見地は止水的環境であり、周辺から飛来するなどしたと推測される。
2)意義
福岡県内の既知産地(筑前町や筑紫野市)とは全く離れた場所であり、状況から考えて付近に生息しているとしか考えられない。つまり、絶滅したかもしれないと思われたタイプ産地「小倉」の本種がひそかに生き残っていたことになる。「小倉」が北九州市内のどこか不明だが、1960年代以降の北九州市の発展にともない絶滅も考えられた。今回の発見でハガマルヒメドロムシはひっそりと、しかし強かに、サスティナブルに命をつないでいたことがわかった。これは北九州市や山田緑地の自然が豊かさを残していることの証拠でもあると思われる。今後はハガマルヒメドロムシがどこを主生息地としているのか、調査研究を進めていきたい。
※ハガマルヒメドロムシについて、福岡県保健環境研究所の中島淳博士にご教授いただいた。